偉大な企業家とペテン師は紙一重。勝てば官軍、負ければ賊軍となる
時は1978年。私は知人を通じて20歳半ばにしか見えないある黒人の若者に出会いました。彼が偉大な起業家だったのかそれともペテン師だったのか、今でも判断がつきません。しかし、私の印象では彼は偉大なビジネスマンだったように思えます。そのとき彼が何をやろうとしていたかをここでお話ししようと思います。
彼は何の変哲もない黒人青年で、背広は着ずカジュアルルックで、どう見てもビジネスマンには見えませんでした。私の知人の日系アメリカ人女性はいたく彼に入れ込んでいました。別に男女関係ということではありません。彼女によると、今彼はすごいことを起こそうとしているというのです。そのときは直に本人からその話は出ず、何がすごいことなのか、私には皆目見当がつきませんでした。しかし、あとで彼女から聞いた話は、私をうならせるのに十分でした。その後、逐一彼女から途中経過を聞かされ、そのプランの成功を祈ったものです。それはかなり壮大なプランでした。
ここでこの青年をTとして話を進めてみます。Tは誰の紹介も面識もないにもかかわらず、元ヘビー級世界ボクシングチャンピオンのところに出かけていき、「あなたに金もうけをさせてあげます。あなただっていつまでもボクシングをやっているわけにはいかないでしょう。あなたはこの書類に、私があなたの名前を使うことを了承したと書いてくれるだけでオーケーです」と言って、何のために彼のサインが必要かを説明したあと、元チャンピオンのサインを手にすることに成功してしまいました。
次に彼は、靴墨メーカーで世界一の会社に出かけ、「あなたのビジネスを一大飛躍させてあげます。今まで以上にあなたが飛躍できないのは、競争相手を持たないからです。そこでその解決策ですが、あなたがその競争相手を作るのです。自分のものと競争相手のものと両方をあなたが作れば、それだけあなたの売上も利益も上がるでしょう。この話は、よそに持っていっても良かったのですが、あなたを見込んでチャンスをあげようと思います。この話に乗りますか。ブランド名はチャンピオンです。そして、これが元チャンピオンの同意書です」と言って、その契約書を見せたのです。
メーカーはこの話のメリットを検討し、元チャンピオン直筆のサインを見てすぐに承諾しました。Tはさっそくサンプルをたくさん作らせました。その足で、当時小売チェーンストアで第1位の会社に乗りこみ、「あなたの会社を信じられないくらいもうけさせるプランを持っています。ほかの候補者も考えましたが、あなたを見込んでこのチャンスをあげようと思ってやってきました。どうです、乗りませんか」と言って、靴墨メーカーとの契約書と、元チャンピオンとの契約書、そして靴墨メーカーが製造した立派なサンプルを見せました。
大手チェーンストアはすぐにこの話に乗ってきました。具体的なプランを煮詰めるため、何度もトップ役員会議が開かれるようになりました。会議はホテル、チェーン店本社、また飛行機の中と何度も開かれました。Tはホテルに宿泊するときはいつも最高級の部屋を取り、レンタカーも高級車を乗り回しました。どうしてそのように金回りが良かったかというと、実は私の知人のクレジットカードを使っていたからです。実は、彼女はこの大プロジェクトが成功したときに、全利益の一定パーセントを約束されていたので、彼に彼女のカードを使わせていたのです。
話はどんどん進み、とうとう最終の詰めに入りました。ところがこのとき、たまたま彼女の夫が彼女のクレジットカードの請求書をみてびっくり仰天し、すぐそのカードをキャンセルしてしまったのです。うまくいっていた彼のプランはここまでで、今までのように自由に動けなくなった彼の行動に、疑問を持ち始めた各社が調査を開始。元チャンピオンがその計画の持ち主でなければ、靴墨メーカーが元チャンピオンを巻き込んだ計画でもなく、チェーン店が元チャンピオンを使っての計画でもないことが判明し、大きな名前を持ったもの同士をくっつけようとした彼の試みは、ここですべてご破算になってしまいました。
たった一つの小さなミス、すなわち彼女の夫を巻き込むことを忘れたミス、それがこの壮大なプランを崩壊に導いたのです。彼はもう目前まで近づいていたチャンスをつかみ損ね、失意のうちに行方不明になってしまいました。一方、私の知人はその後しばらくの間、Tの使ったカードの支払いのため苦しい目にあいました。
このプロジェクトの最中、私と彼と彼女の3人でコーヒーを飲みに行ったときに、急にTが立ちあがり、ある男性に話しかけ始めました。シャービスという、ラテン系の人々の労働環境改善のために戦っていた有名な運動家でした。見ず知らずのシャービスにTはこう切り出しました。「あなたは間違っている。あなたがやっていることはすべてのラテン系の人々に良い労働者になれと指導しているのであって、それは間違いだ。本当にあなたがラテン系の人々の力になって、生活向上を考えるならば、彼らに自分のビジネスを始めるように指導すべきだ」
あなたは、Tをどう思いますか。もしこのプロジェクトがうまくいっていたならば、彼は大成功を収めたビジネスマンとして、世間から高く評価されていたはずです。でも失敗したため、彼はペテン師として評価されてしまいました。
勝てば官軍、負ければ賊軍です。あなたもぜひ自分のビジネスで成功してください。さもないと、「あいつは大ボラ吹きだった」という、たったそれだけの言葉があなたのすべての努力に対する評価になってしまいます。さあ、もう成功よりほかに道はありませんね。ぜひがんばってください。
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